非ぃ不ぅ未ぃからはじまる

Pure Bitch in Amaの主犯格どぇーす。

折れた背中で

 

まだ昼の2時だった。いつもの通り、手持ち無沙汰であった。芳田は職も芸も持っちゃいない。一日が長かった。ここ3、4日の記憶を辿ってもほとんど思い出せない。

平成も終わろうとしている現在、彼は若者であった。周りの連中は大学を出て立派に働きに出ているのだ。拳で壁を思いきり撲りつける気力は無い。如何せん、彼は精神病者だ。今日とてホットな鬱とのハードプレイに忙しくて、生活どころではないのだ。

 

気を紛らわすべく、とりあえず外へ出た。

空だけは晴れていた。些か救われたような気分で二輪に跨った。

青空の下では、子供と手を繋ぎ歩く婦人も古びたうどん屋セブンイレブンも、微笑の対象であった。 

行くアテなど無い。

ドラッグストアに寄った。何故かは分からぬが心が安らいだ。

チョコ菓子とマウントレーニアを手に取ったところでティッシュが切れていることを思い出し、それもついでに買うことにした。彼にとってそれは性活必需の品だった。彼は日に2、3度の手淫を欠かさないのだ。

帳場の女は30過ぎだろうか。決して色気があったり、美人と云うわけではないが、芳田は何だか雄心を覚えた。

 

帰宅後、ひとまずレーニアを一口飲み、煙草を吸った。一服、二服したところで、チョコを口に放り込んだ。

それから15分も経たない内にまた彼は手持ち無沙汰になった。

一日が長かった。

 

 

2日後の夕暮れ時分、彼は駅前で待ち合わせをしていた。1本目の煙草を吸い終わり、無意識に2本目のそれに火をつけようとしたタイミングでその女が来た。アプリで知り合った女だった。

醜女でない代わり、何とも冴えない女であった。決してふぐりが沸くタイプでない、色気に乏しい女だった。

二人は近くの喫茶店へと向かった。

 

 

珈琲を啜り、しばし雑談を交わした。

彼より3つ年上の27歳だというその女は未婚で事務職をしていると言った。

ほとんど、聞く側に回った。聞くフリと相づちを挿れるタイミングだけは、うまかった。

彼は彼女の身の上話、愚痴、それに容姿や人格など、どうでもよかった。

彼女を連れ立ってのラブホテルの展開を想った。この女とのベッドを、当人を眼前にひたすら夢想した。

 

 

1時間も経たない内に店を出た。それほど話は盛り上がらなかった。

『今日は帰ろうかな。』と言う女を説得し、ひとまず公園に向かった。日はとうに落ちていた。

公園のベンチでまた少し話をした。詰まらなかった。

辛抱も臨界に達し、芳田はその女、千佳の肩に手を回した。が、すぐに拒まれた。

『あー、』と、彼は心中で呟いた。しかし、一瞬ではあるが女体のぬくもりに触れることができた。彼の雄心は一層高まった。このぬくもりにもっと触れていたかった。己が鬱ぐ因となっている、あらゆる事象を吹き飛ばしてくれる女、または女体のぬくもりを彼は欲していた。

その後も幾度か肩を回そうとしたり、手を握ろうと果敢に挑んだが、駄目であった。

すっかり内心落胆しきった彼は『ハズレだな。』とまた心中で洩らした。

 

 

諦めがつき、彼女を駅まで送り、彼はまた一人になった。

人と、しかも異性と、人並みに茶店へ出向き、向かい合ってコミュニケーションをとったことで僅かではあるが生気と正気を取り戻していた。人並みに腹も空いてきた。

このまま真っ直ぐ帰路にはつかず、飯でも食ってから帰ろうと思い立った。

まず、ミニストップに寄りマイセンを一箱買い、行きつけであるラーメン屋へと向かった。

 

好みである背脂のきいた豚骨ラーメン、それに半チャンを誂えた。

そして彼はそれらが来るまでの間、箱の封を切り、そこから引き抜いた一本を咥え、虚ろな眼差しを明後日の方へと向けるのであった。