非ぃ不ぅ未ぃからはじまる

Pure Bitch in Amaの主犯格どぇーす。

Lie on the neighbor's green

 

 

三津田はその日、アルバイトの面接を1件済ました後、木元との待ち合わせの場所へと向かった。それは煙草屋の前で、そこにはベンチと灰皿が置いてある。両者、喫煙嗜好の身であるだけにうってつけの集合場所なのだ。

 

三津田がベンチで煙草を吸っていると、木元が現れた。例のごとく、数分の遅参であった。三津田はそれに関しては何も言えない。というのも、会うたびに彼は木元に煙草銭をせびり、茶店代を払ってもらいと、金銭面で世話になっていた。そして、そのツケの方も、毎度、諭吉札が登場するような遊び方はしていないにも関わらず、かなりの額に達していた。

 

三津田は例のごとく、木元にマイルドセブンを買ってもらい、暫くそこで雑談を交わしながら、その日初めてのニコチン補給と相成った。

そして、二人は自転車に跨がり、ここのところ贔屓にしている純喫茶店へと向かった。

 

喫茶サザンカは店内が全体的に薄暗く、一席に一台、暖色のテーブルランプが置いてあった。

日が暮れると、店内は怪しげな密会の場みたく、そのムードを漂わすのであった。彼らはその雰囲気が気に入り、ここ最近の純喫茶行ではその店へ足を運ぶのであった。

 

三津田はホットココア、木元はホットコーヒーのオーダーを店主に言いつけたところで、三津田の方はまた煙草の先端にフリント式ライターの火をあてがう。

ふと、店前の歩道に面した硝子越しに目を見やると、女子大生風の女が2、3人、談笑しながら店前を通り過ぎて行った。その茶店のすぐ近くには女子大がある。おそらく、そこの学生であろう。

三津田は木元に、また詰まらぬ女体渇望の駄弁を弄したりした。

  

 

2時間ほど店に居座り、その後彼らは別れた。

帰宅した三津田に彼の母親は晩飯のお菜の使いを頼んだ。彼は別段嫌がるでもなく、それをすんなり引き受けた。

王将でお菜を2、3品注文した。それらが出来上がるまでの間、店頭の灰皿の前で1本燻らす。しかるのち、近くのドラッグストアでレーニアを購め、また灰皿の前に戻り一服やる。

 

 

お菜の入った袋をさげ、三津田が家路についた頃には彼の父親も仕事から帰宅していた。

珍しく、彼とその両親の3人で食卓を囲んだ。彼は特別、言葉を発することなく、黙々と先ほどテイクアウトして来た餃子なり、酢豚なりを口に運び、次いで飯をかきこんだ。

彼にはこの食卓の画が醜いものに思われた。

 

三津田はここ数年、馬齢を重ね今年で24になるのであった。数年前に患った精神の疾患故、働く気が起きず無職で、一日中実家にのさばり、飯だけは一丁前に食らう寄生虫みたいな存在であった。とても両親にいい思いなどさせてやれていない。

遣る瀬など、何処にも無い。上下ヨレたグレーのスウェットに無精髭ヅラは俯き加減で魯鈍に箸を動かすのだった。

 

 

彼と同年齢の人間はとうに社会に出て働き、銭を稼ぎ、一人の力で生計を立てている。

平日働き、休日は友人とあちらこちらに出掛け、写真を撮り、フザけたそれらを何の芸にもならぬ我がの自己顕示の欲求のまま、糞詰まらぬSNS上にそれらの’’駄作''を投稿しているのだろう。

また、女がいるのであれば、男の方は人生で初となるボーナスで国内ないし海外への旅行を奮発するのだろう。愛する女と時間と行動を共にし、値の張る旨いもんに舌鼓を打ったりもし、そしていっぱしの大人にでもなったつもりか、高級ホテルのなるたけ高い階の部屋など予約し、バスローブに着替え、夜はその女のバスローブをはだけさせ、その柔肌な肉体にありつくのだろう。

 

その一方で俺はどうだ、と三津田は内心独りごちた。愛する女とでも、高級ホテルの一室でもない、古びた小汚い一軒家のリビングで、もうじき還暦を迎えるすっかり老いた両親と、23歳晩冬の今この時間を過ごしているのだ。

 

彼とて、場所なぞどこでも構わない、別に女とでなくていい、旅行に行きたかった。近くの温泉で気のしれた友人と一泊するだけでも、この上ない悦楽のように思われた。

しかし、そんな見知らぬ土地にいけば、病による例の発作が起きるやもしれぬ。また、その予期不安や発作後の鬱でせっかくの温泉旅も台無しになるのが目に見えている。

 

 

彼は空いた茶碗をシンクに持ってゆき、ダウンを羽織り外へ出た。

いつもの公園へ行くつもりであった。

またそこで煙草を吸うのだろう。

そして、帰宅しまた手持ち無沙汰になるのであろう。

夜が更ければ、就寝前の手淫に出来る限り時間をかけ、僅かに肉体を疲弊させた勢いで眠りに就くのであろう。

 

どうやら、彼のもとに人生の一般航路とやらは用意されていないらしい。